制作年/2012/09/12
収録時間/46分17秒
レーベル/RUSH! PRODUCTION/AWDR/LR2
前作までは序章に過ぎなかった
以前に掲載したのだが、前作『Letur-Lefr』から約2ヶ月を経て発表された『PBX Funicular Intaglio Zone』は彼の今現在における進化の全てが綴られている。そう、全てが。
『Letur-Lefr』はそれまでのロックテイストから脱却され、電子音にまみれながらも、やはり彼のギターの音が骨まで染みる異作でありながら会心作であった。
ただ、それですらただの序章に過ぎなかったのだ。
音に対する貪欲さ
前作で見せたテクノ、ヒップホップ、エレクトロニカ要素は相変わらず鍵を成す音にまとめられているのだがそこから貪欲に、なかば暴飲暴食に近いような勢いでさらなる要素を喰らい、消化し、表現している。
聞こえてくる音は全く違えど、あのBECKの『Mellow Gold』をはじめて聞いたときに近い印象を覚える。
「INTRO/SABAM」の入りに関してはPrefuse 73を感じたりもする。
それでも、確実にJohn Fruscianteの匂いがする。
いったいどれほどの量の、種類の音楽を、どれだけの時間を使って自分の血液にしているのだろう。
世代の方にとってはなんとなく分かるかもしれないが、全体的にファミコンのレトロゲームのような音が響き渡っている。
もはや笑いが出る。
ファンでいると妄信的に音楽を聞いてしまっていることはよくあることだと思う。
それでよかったり、それではいけないと考えてみたり。
いろいろな音楽の聞き方を覚えていくことで
さらに頭は固くなってしまうこともきっと多々あるだろう。
自己の表現
筆者はJohn Fruscianteを崇めている。それはもうファンである。
だからこそ改めて音楽に対してフラットに接することができる一枚であると強く感じる。
何しろそれまでの彼では考えられないような音だからだ。
現Red Hot Chili PeppersのJosh Klinghofferらと製作をおこなった『A SPHERE IN THE HEART OF SILENCE』ではとてもチープな打ち込みを行っているが現在のそれとは全く別物に思える。
それまではギターのために電子音が必要であったように聞こえるが、現在ではそれら様々なギター以外の音のためにギターを鳴らしているようだ。
それはタイトルでからも伺える。
『PBX Funicular Intaglio Zone』は「PBX」「Funicular」「Intaglio」「Zone」の4つの単語をつなげただけのものだが「PBX」は例えば内線電話同士の接続や公衆電話網への接続を行うために使用されるような内部コミュニケーションシステムで、「Funicular」はケーブルカーなどを動かしている仕組み。
「Intaglio」彫刻などで、図柄を陰刻(くぼませる)する手法。
「Zone」はスポーツなどでトップ選手にまれに起こるといわれている、意識の外の領域(おそらく無我の境地のようなもの)に到達する状況。
これら全てがJohn Fruscianteという人間の中で起こっているのだ。
聞けば誰しもが納得せざるを得ないような絶妙なタイトルだ。
それぞれの音自体は全て今までの彼の作品を含め、似たようなものを聞いたことがある人はいくらでもいるだろう。
ただ、その音たちが重なれば話しはまったく別なのである。
人間の脳はきっと、せっかく得た知識を総動員して似たものに当て嵌めてなんとか理解をしようとするものだと思う。
ただ、たまには素直に理解外であると感じてもいいのではないのだろうか。
こうやって『PBX Funicular Intaglio Zone』は発売はされている。
ただ現在のJohn Fruscianteは彼自身のために音楽を作っていると公言している。
それはきっと彼にしか理解できない音があるからだろう。
進化は終わらない
今ここに、確かに進化の全貌を曝け出した。
しかしそれは曲が生まれた段階までの進化である。
この先も、John Fruscianteを追いかけ続ければ聞くものの耳を洗い流してまっさらな平らな状態にしてくれるだろう。
そのたびに全く新しい、笑えるような、泣けるような、ワクワクしてドキドキするような様々な感情を顕にさせてくれるはずだ。
そのときはきっと聞き手の進化もとまらないはずだ。
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